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中毒学研究室のあゆみ

1995年4月、日本の薬系大学で初めて「中毒」を標榜する医療系研究室(医薬研究施設中毒部門)が北里大学薬学部に設置された。E号館(現3号館)7階を拠点として、小鴨 晃教授と福本 真理子講師の2人体制でスタートを切った。その後、1998年には北里大学薬学部臨床薬学研究センターの一部門に組織され、さらに2008年、2011年の組織再編により、臨床薬学研究・教育センター臨床薬学大講座の研究ユニット(中毒学)として、教員1名体制(福本真理子准教授)で2019年3月まできている。2019年度は、福本真理子准教授が3月末退職したため、専任担当教員は不在となり、博士課程大学院生1名の研究指導および学部講義を引き続き、非常勤講師(福本真理子)が担当している。

小鴨晃(1995.4~2004.3)は中毒起因物質の鑑定に際して標準物質として必要な対象薬物の代謝物が入手困難なものが多いことに注目した。鑑定への寄与を目差し、医薬品主要代謝物の化学反応を利用して原体から容易に作成できる方法の開発に着手した。一般に、ヒトを中心とした薬物代謝物は、シトクロムP450による酸化反応による酸化生成物が多い。化学的手法に着目したのは、動物など(全体、臓器、細胞、酵素)が不要である以外に、薬物原体があれば、反応特異性を示す適切な反応を選択し最適条件が設定できれば、1段階の反応で作成でき、精製も結晶化や有機溶媒沈殿法など比較的容易な点からである。
最初に、チタン含有多孔性ケイ酸の結晶体を触媒として過酸化水素による酸化反応を実施した。対象は抗精神病薬として使用され環状構造を有するフェノチアジン誘導体8種と三環状抗うつ薬4種で、各々S−オキシド体とN−オキシド体を得た(松本修士論文、平成10年度)。次いで、日本で最も鑑定例が多い覚せい剤メタンフェタミンの代謝物を得るため二種の反応を検討した。N−脱メチル化反応により、代謝物として覚醒剤アンフェタミンが生成する。アルカリ性フェリシアニドによるPerrine反応を用いて反応温度を変えて条件を見出し、エーテル沈殿法でアンフェタミンを得た。アスコルビン酸、2価鉄―EDTAの組合せにより芳香環水酸化体を得たが、MA摂取患者3名の尿についてHPLC分析を行い、原体と2種の代謝物の比率が各々特有のパターンを有することが示された(上田修士論文 平成13年度)。

一方、福本は、中毒・救急領域に専門性(コア)を持つこと、医薬品の有害性(毒性)に注意を向け、それによる健康被害を軽減する方法を考えることをミッションとして研究を組み立てた。具体的には、総合感冒薬の成分として繁用されているアセトアミノフェンによる中毒の毒性評価のための新規バイオマーカーの開発や、日本で最も多い家庭内事故であるタバコ誤飲事故の防止策、また造血幹細胞移植の前治療(抗がん剤大量療法)の個別化法の検討を行った。臨床に直結した研究(臨床で発生する問題の解決)であるため、北里大学病院救命救急センターをはじめとする救急医グループ、名古屋BMTグループや関東造血幹細胞移植共同研究グループなど、臨床との共同研究が多い。

*公的助成金の獲得
厚生労働科学研究費補助金「家庭用化学製品のリスク管理におけるヒトデータの利用に関する研究」(平成18年度〜平成20年度)
日本学術振興会科学研究費補助金(萌芽研究)「新規バイオマーカーを用いたアセトアミノフェン中毒の解毒薬治療評価法の提案」(平成20年度〜平成21年度)
平成22年度日本学術振興会科学研究費補助金(萌芽研究)「新規バイオマーカーを用いたアセトアミノフェン中毒の解毒薬治療評価法の提案」(平成22年度〜24年度)

*大学院および卒論配属学生
大学院教育
4年制教育における大学院修士課程修了生(臨床薬学特論)は、松本英樹、吉井(三岡)恵理子、上田将嗣、蓮見(増田)雅子、福島れい、山戸和貴、宇田川涼子、井上朋子、渡邊(鈴木)清佳、友田吉則、戸塚美郷、原田(市村)萌、神一夢、藤森太一、山口麻美、中原大貴の16名である(平成11年~23年)。6年制教育では、社会人大学院制度ができ、薬学専攻(博士課程)薬学履修コースに、現在、友田吉則(D1)が在学中である。

学部卒論教育
卒論配属の学部卒業生は、4年制教育(平成7年度〜20年度)では109名、6年制教育(平成23年度〜27年度)では20名を数え、平成28年現在、卒論配属生6年生4名、5年生4名が所属している。

*講座研究生は、以下の3名が所属していた。
山田利治(当時、神奈川県衛生研究所)、加藤範行(神奈川県警察科学捜査研究所)、山戸和貴(医療法人徳洲会福岡徳洲会病院)

*主な所属学会と役職・業績
日本法中毒学会(小鴨:評議員)
日本中毒学会(福本:理事、評議員、連携委員会委員長、広報委員会委員長、編集委員会副委員長、国際委員会委員、認定委員会委員、教育委員会委員、将来構想委員会委員、東日本地方会幹事)。
第28回日本中毒学会東日本地方会(平成26年1月11日、北里大学薬学部)を主催した(福本)。
日本社会薬学会(福本:幹事(2010年〜2016年)、常任幹事(2012年〜2014年)、編集委員会委員長(2012年〜2014年))
日本毒性学会、日本薬学会、American Association of Clinical Toxicology、他

なお、大学院および卒論研究成果を発表した日本中毒学会や日本社会薬学会では、院生や学生の発表に対しそれぞれ2回ずつ学会優秀賞が授与された。

*担当講義・実習

4年制教育では、必修講義「医薬品安全性学・薬剤疫学」(4年)、「医薬品情報学」(4年)、「衛生・薬毒物試験法」(4年)および「臨床薬学実習」(3年)を担当した。平成21年度より、必修講義「衛生化学II」(3年)、「医薬品安全性学II」(4年)、「薬物治療II演習」「薬学総合演習」(6年)を、実習は事前実習「中毒分析・救急処置法」(4年前期)を、選択科目は講義「救急治療・臨床中毒学」(4年)、演習「文献講読ゼミ」(3・4年)を担当している。

平成18年より6年制教育が開始してからは、生活の中で使われている多くの化学物質を正しく取り扱うために必要な知識と技術を持ち、病院・薬局、医薬品、食品の安全性を取り締まる行政、法医学、科学警察などの分野で、専門性を活かせる薬剤師を育成し、社会での活躍を支援するために、教育、研究を行っている。

(北里大学薬学部 50周年記念誌(中毒学)より一部改変)

Update:2019/5/16

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